手回し用として古い職業用ミシンを入手しました。

機種はおそらくSINGER 103。
届いた箱を開けた瞬間、思わず笑ってしまいました。
予想はしていましたが、とにかく汚い(笑)。

サビもかなり進行しており、長年放置されていたことが一目で分かる状態です。
しかし、こういうミシンほど面白いものです。
シリアルナンバーを調べてみると、このSINGER 103は約100年前にドイツで製造されたものらしいことが分かりました。
100年という年月を経て、なぜ日本に渡り、そして私の工房へたどり着いたのか。
その歴史を知ることはできませんが、想像するだけでも楽しくなります。
100年分の汚れとの格闘
まずは清掃から始めます。

しかし、これがなかなか大変でした。
磨いても磨いてもウエスが真っ黒になります。
「もう十分だろう」と思っても、さらに磨けばまた汚れが出てくる。
100年分の油汚れやホコリは想像以上に手強く、地道な作業の連続です。
それでも磨き続けていると、くすんでいた金属部分に少しずつ本来の輝きが戻ってきます。
古いアンティークミシンを再生する楽しさは、こういう部分にあるのかもしれません。
SINGER 103は厚物縫い向きの職業用ミシン?
今回の目的は、単に動くようにすることではありません。
革用ミシンとして実際の製作に使える状態へ仕上げることです。
整備を進めながら各部を観察していると、現代の国産職業用ミシンとの違いがいくつも見えてきました。
特に興味深かったのは、上糸調子器のバネの働き方や針棒の位置関係、押さえ周辺の構造です。
実際に触ってみると、このSINGER 103は薄物よりも厚物縫いを意識した設計に感じられます。
もちろん現代の工業用ミシンと単純比較はできません。
しかし革を扱う立場から見ると、レザークラフトや革製品の製作に向いている要素を多く持っているように思いました。
古い職業用ミシンだから性能が劣るというわけではなく、用途によっては現代のミシンにはない魅力があります。
今回の整備作業では、そのことを改めて実感しました。
レザー用ミシンとして再生完了
清掃、注油、調整を繰り返し、ようやくレザー用の手回しミシンとして完成しました。

新品のような外観にはなりません。
傷もありますし、塗装の傷みも残っています。
しかし100年という年月を考えれば、それもこのミシンの歴史の一部です。
むしろ新品にはない風格があり、工房に置いてあるだけで存在感があります。
2mm厚のタンニン鞣し革で試し縫い
再生後はさっそく試し縫いを行いました。

使用した革は2mm厚のタンニン鞣し革。
これを二つ折りにして縫製します。
使用した針は18番。
糸は上糸・下糸ともに8番です。
革用ミシンとしては比較的太めの組み合わせですが、このSINGER 103の性能を確認するにはちょうど良い条件です。
実際に縫ってみると、手回しならではのゆっくりとした操作感が心地よく、一針一針を確実にコントロールできます。
縫い上がった表面を見ると、縫い目は均一で乱れもありません。

裏側を確認してみても、糸はしっかり締まっています。
上下糸のバランスも良好です。

100年前に製造されたミシンとは思えないほど安定した縫製結果でした。
SINGER 103は今でも革縫いに使える
今回の再生作業を通して感じたのは、昔のミシンの完成度の高さです。
約100年前に製造された職業用ミシンが、適切な整備を行うことで現在でも問題なく革を縫うことができる。
これは本当に驚くべきことだと思います。
もちろん最新の工業用ミシンのような生産性はありません。
しかし、レザークラフトや革製品の製作において、一針ずつ確実に縫いたい場面では手回しミシンならではの魅力があります。

見た目は決して綺麗とは言えません。
それでも縫い目はしっかりしている。
道具としては十分以上の性能です。
今回再生したSINGER 103が、これから工房でどのような仕事をしてくれるのか楽しみです。
100年の時を超えて再び現役に復帰したミシン。
これからは革を縫うために活躍してもらおうと思います。